良いWan 3.0プロンプトは、形容詞を大量に並べた文章ではありません。誰が、どこで、何を行い、カメラがどう観察し、音がいつ入り、どの画で終わるのかを明確にした「短い演出設計書」です。
制作モードが変われば、文章に任せる仕事も変わります。テキストから動画では世界そのものを立ち上げ、画像から動画では元画を基準に時間変化を設計し、参照素材から動画では複数素材の担当範囲を整理します。共通するのは、画面で検証できる指示へ落とし込むことです。
まず覚える3つの型
テキストから動画は、次の順番から始めます。
被写体 + 場所 + 主動作 + カメラ + 画づくり + 音 + 終了状態
画像から動画では、静止画がすでに決めている外見や構図を繰り返さず、次を中心にします。
主動作 + 補助動作 + カメラ + 維持する要素 + 終了状態
参照素材を使う場合は、素材の関係が先です。
素材の役割 + 新しい場面での関係 + カメラ + 音 + 終了状態
型は結果を保証するためではなく、矛盾や抜けを生成前に発見するためにあります。
最初に「このショットの仕事」を一文で決める
プロンプトを書く前に、次を埋めてください。
この動画を見終えた人は、____を理解する/感じる。
商品の可動部を理解させる、人物の迷いが決意へ変わる瞬間を見せる、空間の広さと静けさを伝える、といった一つの目的に絞ります。追跡、回想、複数人の会話、都市をまたぐ展開まで一文に入るなら、複数ショットへ分けるべきです。
プロンプトを8つの制作レイヤーに分ける
1. 動いても識別できる被写体を書く
輪郭、年代、服の色と素材、髪型、商品の形、重要な小道具など、中景や動作中でも読める特徴を選びます。
曖昧な例:
女性が市場を歩く。
具体的な例:
苔色のエプロンを着た中年の花屋が、白いシャクヤクを載せた浅い木製トレーを持ち、早朝の屋内花市場を歩く。
後者は人物、道具、基調色、空間を同時に固定しています。
2. 画面に影響する環境だけを書く
空間の広さ、前景と背景、時刻、天候、実際の光源を優先します。
ガラス屋根の下に薄い霧。細い朝日が花の売り場を横切り、遠くの客はゆっくり動くが柔らかくぼけている。
映像に作用しない装飾の羅列は、重要な指示を埋もれさせます。
3. 主動作を一つ選ぶ
「希望を感じる」は内面の説明です。「足を止め、差し込んだ朝日を見つけ、視線を上げて小さく微笑む」なら撮影できます。
短い1ショットでは、複数の未完了動作より、一つの動作が始まりから結果まで見える方が強くなります。
4. 動きに優先順位を付ける
- 主動作: 花屋が立ち止まり、視線を上げる。
- 補助動作: エプロンの紐と花びらが風にわずかに反応する。
- 背景動作: 遠景の客だけが低速で移動する。
全要素が激しく動くと、視線の中心がなくなります。補助動作は空間に生命を与えますが、別の物語を始めてはいけません。
5. 主となるカメラワークを一つ選ぶ
| カメラ | 向いている表現 | 指示例 |
|---|---|---|
| 固定 | 観察、抑制、製品構造 | 「カメラ固定。パン、ズームなし」 |
| スロープッシュ | 親密さ、発見、注意の集中 | 「ミディアムからクローズへ安定して前進」 |
| スロープルバック | 空間、規模、孤独 | 「ゆっくり後退し、周囲を見せる」 |
| 横移動 | 人物と場所の関係 | 「人物と同速で横から追従、距離一定」 |
| 小さなオービット | 形状、製品ディテール | 「被写体を中央に保ち、小幅に時計回り」 |
短い動画に上昇、旋回、手持ち揺れ、急接近、ウィップパンを同居させると、主動作よりカメラが目立ちます。
6. 抽象語を撮影可能な判断へ変える
「映画のように」「高級に」「圧倒的に」だけでは不十分です。曇天の柔らかい光か正午の硬い光か、浅い被写界深度か全景を読ませる深いピントか、記録的な構図か精密な商品広告かを決めます。
7. 音を場面の一部として設計する
Wan 3.0はネイティブの音声付き生成に対応します。音は次の3層に分けます。
- 声: 誰が、何語で、正確に何を、どんな速さと感情で話すか。
- 効果音: 足音、布、機械、雨、物体同士の接触。
- 音楽: 必要か、いつ入るか、どんな役割か。
台詞なし。花市場の空調音、遠くの台車、包装紙の小さな擦れだけ。前半は音楽なし。最後の2秒に温かいチェロの単音が入る。
音楽を使わないことも、明確な演出判断です。
8. 最後に読める状態を定義する
「そこで終わる」ではなく、最後の姿勢、視線、商品位置、構図、保持時間を書きます。
花びらが一枚トレーに落ち、安定したクローズアップで1秒保持する。
終点が明確なら、物語にも編集にも使える余白が生まれます。
完成形のプロンプト例
1つの連続ショット。苔色のエプロンを着た中年の花屋が、白いシャクヤクを載せた浅い木製トレーを持ち、早朝の屋内花市場を歩く。ガラス屋根の下には薄い霧があり、細い朝日が売り場を横切る。人物はカメラへ歩き、最初の光に気づくと速度を落とし、視線を上げて控えめに微笑む。カメラは歩調に合わせて安定して後退し、人物が止まった時だけ一度ゆっくり寄る。遠景の客は柔らかくぼけ、低速で動く。エプロンの紐と花びらは弱い風に反応する。冷たい自然光の中、花には温かなハイライト。台詞なし。市場の環境音、遠い台車、包装紙の擦れ。最後の2秒だけチェロの単音。花びらが一枚トレーに落ち、クローズアップで1秒保持する。
問題が出ても、主体、動作、カメラ、光、音、終点のどの層を直すべきか判断できます。
長い動画はタイムラインで因果を管理する
15秒や30秒では、長さそのものより、変化の順序が重要です。
- 0〜5秒:導入 — 人物、場所、カメラの関係を示す。
- 5〜12秒:展開 — 主動作を進める。
- 12〜18秒:変化 — 感情、方向、規模、音のどれかを変える。
- 18〜24秒:着地 — 動作を完了し、画面を整理する。
- 24〜30秒:保持 — 自然に編集できる終点を見せる。
すべての動画に5区分が必要なわけではありません。タイムラインはカット数を増やす道具ではなく、因果関係の曖昧さを減らす道具です。
画像から動画では、外見より動きを書く
元画像の顔の比率、髪型、濃いグレーのコート、構図を維持する。人物は静かに呼吸し、窓の外へ視線を移した後、肩の力を少し抜く。カーテンの端だけが弱い風で動き、室内の他要素は静止。カメラ固定、ズームなし。元画像の色と光の方向を保つ。最後は窓外への視線で止める。
詳しい事前確認とドリフト対策はWan 3.0画像から動画ガイドで解説しています。
参照素材には明確な担当を与える
素材を入れる前に、@image1は人物、@image2は空間、@video1は歩行リズム、@audio1は動作のテンポだけ、と役割を書き出します。
@image1の人物が@image2の通路を歩く。@image1の濃いグレーのコートと@image2の緑色タイル構造を維持する。@video1からは歩幅と肩のリズムだけを使い、出演者、服、場所はコピーしない。@audio1は動作テンポだけに使い、音声は再現しない。
一文で役割を説明できない素材は、削除する候補です。
改善は1回につき1変数
動きが弱いなら速度と経路だけを明確にする。顔や商品が崩れるなら、回転、オービット、接触を減らす。画面が散漫なら背景動作を削る。終わりが急なら終了状態と保持時間を加える。
毎回すべてを書き換えると、何が改善に効いたか分かりません。成立している層を固定し、最初に失敗した層だけを変えます。
生成前チェック
- ショットの目的が一つに絞られている。
- 被写体を短時間で識別できる。
- 主動作が目で確認でき、時間内に完了する。
- カメラが動作を助け、競合していない。
- 声、効果音、音楽の役割が分かれている。
- 各参照素材に一つの主担当がある。
- 最後の画が具体的に定義されている。
- 速度、感情、場所、カメラに矛盾がない。
- 長さと縦横比が公開先に合っている。
確認できたらWan 3.0 AI動画生成でテストし、プロンプト、設定、参照素材、出力を同じ場所に保存してください。再現できる記録があって初めて、プロンプトは制作ワークフローになります。


